電気自由化とは?

東日本大震災以後、「電力自由化」や「発送電分離」などのキーワードが、マスコミをにぎわしています。2016年4月からは、家庭用電力小売事業が自由化されると報道されています。

これらの言葉の意味は何でしょうか。そして今日本の状況はどうなっているのでしょうか。

電力事業の始まりは、1887年にさかのぼります。民間の東京電灯が日本橋茅場町から送電を始めました。同じ年、火力発電所を東京に5ヶ所建設したのです。

その後、多くの電力会社が乱立しました。太平洋戦争を経て戦後の1951年、それまでたくさんあった電力会社を統合して、日本全国の地域ごとに9社の電力会社を創設したのが「電力の鬼」と呼ばれた松永安左ェ門でした。沖縄返還後は、沖縄も含めて10電力会社の体制になり、この体制は1995年まで続きました。

1964年に制定された電気事業法が1995年に改正され、独立系発電事業者(IPP)が入札により、電力会社に電力の卸供給ができるようになりました。また、特定地域に電力を供給できる特定電気事業者が創設されました。次いで2000年の第二次改正では、特定規模電気事業者(PPS)が、電力会社の送電線を使って大口の需要家に電力を供給できるようになりました。

小売の対象となる需要家は、当初は契約電力が2,000kW以上の大規模なデパートや工場でしたが、この条件が500kW以上(2004年)、50kW以上(2005年)と段階的に緩和されてきたのです。しかし、家庭用の電力小売は自由化されませんでした。

ここへきて、震災の影響もあり、政府は急いで家庭用電力の自由化を促進したのです。2016年4月には、小売の対象が家庭用を含めた全利用者になりました。これにより、家庭用だけでなく、コンビニなど小規模の小売店や小規模事業所なども対象となります。

加えて、2015年6月に改正された電気事業法では、2020年4月までに現在の電力会社に「発電・送電分離」をさせることが新たに決定しました。これによって、電力の小売の全面自由化が完了することになります。


 

電力会社の種類

 

私たちが電気を買うことのできる事業者は、次の5種類に分けることができます。

①一般電気事業者

私たちが普段電力会社と呼んでいる会社で、全国に10社あります。日本全国を10ブロックに分けて、各ブロックに1社ずつ存在します。北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の10社です。

②卸電気事業者

一般電気事業者に電力を供給する事業者のうち、合計200万kW超の発電設備を有する大規模事業者。現在は電源開発、日本原子力発電の2社です。

③卸供給事業者

一般電気事業者に電力を供給する事業者のうち、合計200万kW以下の発電設備を有する小規模の事業者。独立系発電事業者(IPP)ともいう。

④特定電気事業者

限定された区域に対して、自営の発電設備と送電システムを用いて電力供給をする事業者。六本木エネルギーサービスやJR東日本などがそうです。六本木エネルギーサービスは、森ビルと東京ガスが出資して設立した出力3万3680kWの事業者で、六本木ヒルズ内で使用するエネルギーをすべてまかなっています。

⑤特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier)

2000年から電力の自由化が始まり、電力事業分野の制度改革が行われたことによって発足した新規事業形態で、一般電気事業者が持っている送信路を通して電力を供給する事業者です。2015年現在、電力の自由化の対象となるのは、契約電力が50kW以上の需要家であり、特定規模電気事業者の参入が認められています。2015年11月現在、特定規模電気事業者に所属している企業は790社余りです。


発電・送電分離とは?

日本の電力事業は、10社の電力会社による垂直統合型で運営されています。

電力システムは、主に発電システム・送電システム・配電システムの三つからなっています。このうち、発電所は1基、2基というように独立して建設できます。しかし、送電システムは、網の目のように全国に張り巡らされた膨大な量の送電施設からできています。配電施設も同様に、既に大手電力会社が各家庭や事業所との間に張り巡らせたものが存在します。

これら送配電システムを構築するのには、莫大な投資が必要になり、新規事業者にとっては大きな参入障壁になります。

このような事情で、電力が自由化されたとしても、新規事業者が参入できるのは、事実上、発電部門に限られます。

現在のPPSは、電力自由化によって、発電部門に新規参入した企業です。

ところが、PPSが一般家庭に電力を小売りしようと思っても、送配電システムは、全国10社の一般電気事業者が持っている設備ですので、PPSは、一般電気事業者の送配電システムを借りて送電することになるのです。

現在、PPSと一般電気事業者とは、発電事業に関して競争の関係にあるとはいえ、PPSが一般電気事業者の送配電設備を借りて運営している限り、両者間の対等な競争関係は成立しにくくなります。

PPSの電力料金には、電力会社の送配電システムを借りるために生じる「託送料」が上乗せされるため、PPSにとって、電力会社に支払う2.5円~5円の託送料は非常に大きなコストとなります。それに加えて発電に要する燃料費のコストもかかるので、燃料費が高騰すると採算が成り立たなくなる可能性もあります。

そのため、PPSの参入が阻害されているのです。

そこで登場したのが、「発電・送電分離」の考え方です。

発電・送電分離とは、これまで大手電力会社が一手に握っていた発電事業と送電事業を、別事業体として分離することです。送電部門を現在の電力会社から切り離し、新規事業者も既存電力会社も同じ基準で送電網を使えるようにしよう、というのが発電・送電分離の主な狙いです。

発電・送電分離は、電力自由化の切り札となると考えられています。

こうすれば、大手電力会社の発電部門とPPSとは、ともに発電だけを行う事業者として、対等の立場になり、公正な競争が行われることが期待できます。

その結果、電気料金の低下が期待できるのです。


PPSの役割

電力の小売が一部自由化された現在、消費者はPPSからも電力を買うことができるようになりました。

しかし、現在は、電力会社との契約が50kW以上の大口需要家(主に中規模以上の工場、中小オフィスビル、大規模小売店舗など)に限られています。一部の自治体や小・中学校、高校、マンション、スーパー、経済産業省なども、PPSから電気を購入しています。これらを合わせると、全国の電力需要の6割強が自由化されたということです。

現在、少なくとも大口消費者は、PPSを含めた電力会社の料金体系をにらみ、自分の組織にふさわしい電力会社を選ぶことができるようになったのです。

でも、依然として私たちの家庭には、大手電力会社からしか電力供給がされていません。2016年4月からは、電力会社を私たち自身が選んで使うことができるようになります。つまり、PPSを契約の相手として選ぶことができるようになるのです。


電力自由化のメリット

電力自由化による最大のメリットは、各社の電気料金プランを比較して、コスト的に有利な電力会社を選べることです。電力事業への参入会社が増えることで競争が活性化し、電気料金の値下げが期待されます。

携帯電話会社の乗り換えによって携帯電話の料金が安くなったのと同じ状況が、電気料金でも起こる可能性は十分にあります。

従来の電力会社にはなかった、全く新しいプランが登場することも期待されます。携帯電話やインターネット回線とセットになったプランや電気自動車とセットのプラン、太陽光発電システムとセットのプランなど、ユニークなプランが期待できます。

安い電気を大量に使いたいとか、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーで発電した電気だけを使いたいなど、多様化する個人のニーズに合ったプランも登場するでしょう。


電力自由化のデメリット

電力自由化のデメリットとしては、メリットに挙げたことに反するようですが、電気料金が値上がりする可能性があります。

電力自由化の目的の一つは競争原理を導入し、消費者が少しでも安い料金の電力を選べるようにすることでしたが、すでに電力自由化に踏み切っている諸外国では、導入当時は確かに値下がりしたものの、その後は値上がりしてしまった例もあります。

電力自由化前は、電気料金を決定する際に、電気料金が高くなりすぎないように国が審査をして、大幅な値上がりを規制していました。電力自由化後は規制がなくなり、自由競争になります。市場に競争原理を導入するということは、価格が需要と供給のバランスで決まるということです。需要が多く、供給が少ない場合には、価格は上がるのは当然のことといえます。

諸外国で電気料金が高くなった理由は、天然ガスや石油などの燃料費の高騰の影響もありますが、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの買い取り費用を上乗せされたことが非常に大きな要因となっています。

電力自由化の導入当初は、新規顧客を獲得するための競争により、電気料金が下がる可能性も考えられますが、その後、必ずしも電気料金が下がったままとは限りません。

あとひとつは、安定な電力供給への不安です。日本の停電回数は諸外国と比べて格段に少なく、ずっと長い間安定供給が保たれていたのです。

電力自由化により、従来の地域電力会社に比べて、発電設備の運営管理や保守などの技術力が劣る事業者が参入してくる可能性があります。利益を最優先した結果、設備投資に十分なお金をかけずに運営する事業者も出てくるでしょう。そういう事業者の設備が故障を起こしたときに、大規模な停電が増えるのでは、と懸念されています。

従来の電力会社は、そのようなときのために、消費者に迷惑をかけないように、新事業者の肩代わりをする義務を負っています。ただ、それでは従来の電力供給体制と変わらず、何のために自由化したのかが分からなくなります。


電力自由化後の日本の今後の電力事情

2016年4月からいよいよ日本でも電力が自由化されますが、諸外国の先例を参考にして、今後の電力行政はどのようにしていったらいいのでしょうか。

日本は、一時期自給率100%を超えたイギリスの通りに自由化を進めることは到底困難です。日本のエネルギー自給率はたった4%です。原子力発電の道をほぼ断たれた今、燃料のほとんどは海外からの輸入に頼らざるを得ないのです。発電を行う事業者が増加すればするほど、日本全体での必要量が把握しにくくなり、燃料調達の計画が立てづらくなります。「安定的かつ大量に」という従来の方針を踏襲した交渉ができにくくなり、国際市場における資源調達力が下がってしまうのです。

PPSの側にもリスクはあります。自由化により新規事業者が多数参入し、市場で争うことにより、競争原理で価格が下がっていくことが想定されます。しかし、このように供給過剰で価格が下がると、将来を見込んで予定していた設備投資費用の回収ができなくなってしまいます。また、僻地や過疎地への電力供給は、コスト高になって採算が取れなくなります。いままでは10社の電力会社が、日本全国を取り仕切っていたため、こういう地域にも同一価格で電力を供給することができたのです。

発電・送電分離制度のもとに多くの事業者によって競争市場を形成しているのは、北欧や米国の一部のように、豊富なエネルギー源を所有している国・地域に限られます。自給率がそれほど高くなかったフランスやドイツでは、発電・送電分離は慎重に進められ、分離後も政府と資本の提携をするなどの戦略が取られました。

現在、日本では、自由化に向けて法制度が整備されてきました。それは確かに自由化の第一歩として必要なことだと思いますが、先例となる諸外国の状況を見ると、ゆくゆくは日本も、フランスやドイツのように、政府の介入が必要な状況になることは避けられないでしょう。現実路線では、これがもっとも安全性の高い選択であろうと思われます。